〜現代の書籍から〜


〜4耐バイク世代 114〜123p より〜

Chapter 3-1 GSX-R

 耐久レースで聞くエキゾーストノートを想い起こして頂きたい。4ストロークマル チ(多気筒)エンジンのあのレーシングサウンドである。排気の脈動干渉が高周波と 低周波を混成したような、クオーンというエキゾーストノートだ。
 テストコースのストレートでもうほとんど200q/hを体験させられ、強烈に深 いリーンアングルを与えてコーナリングを繰り返していると、このGSX‐Rの車上 でイメージするのは他ならないTTF−1の世界である。
 ……これが本当にストリートバイクなのだろうか……東京モーターショーで GSX‐Rを眺めたファンの大半がそう思ったに違いない。そしていま、量産体制に 入った実際のGSX‐Rの実感は、全くこれと変わることがなかった。
 スズキの耐久レース用ワークスマシン、GS1000Rと見まごうばかりのデュア ルヘッドライトを装着したハーフカウルやフューエルタンクの形状、アルミの角パイ プフレーム、大型サイレンサーの目立つ集合マフラー、完全なとして良いクリップオ ンハンドルetc……。その外観からも充分にGS1000Rレプリカをイメージさ せるGSX−Rは、むしろあのRGΓとRG250Γの関係よりも密接にさえ感じら れる。
 それが152kg! という4ストローク・パラレル(並列)4気筒エンジンの 400ぼクラスとしては信じられないような超軽量と、59ps/1万1000rpmの 高出力と聞けば、唖然としてしまう方が普通というものだ。そのパフォーマンスが 750ccに肉薄する、という結果を得ても、むしろ驚きとはならないだろう。
さて、その物議を醸すGSX‐Rのコンセプトは、いうまでもないGS1000R レプリカを目指すことになるわけだが、サーキットから出てサーキットヘ戻る、とい う具合に具体的に過渡特性をさらに深いものとする。即ち、TTF-1のGS100 0Rをストリートバイクとするイメージは、そのままこの400ccクラスのロードレ ースであるTTF‐3のレーシングマシンヘ結びつけようというのだ。
 そこに流れるポリシーは、相変わらずの4つのコンセプト、ハイパフオーマンス、 良好なハンドリング、快適性、外観上の魅力、を高次元バランスさせるところにあり GPマシンも考え方は同じ、とする。
 GSX‐Rの水冷DOHC16バルブ4気筒エンジンは、基本的にGSX400FW をベースとしている。しかし、高出力化と軽量化を一挙に数段異なるレベルに狙った ため、実際は全面的な新設計とするのが正しい。
 高回転、高出力達成の常道であるフリクションロスの低減で、クランクシャフトや コンロッド、ピストンなどの軽量化をはかるのはもちろん、お得意のTSCC(2渦 流燃焼室)も全面変更されてニューTSCCとなるなど、目標値達成へ注ぎ込まれた 尽力はかなりのものだ。TSCCは御存知シリンダーヘッドの燃焼室に2つのドーム を形成し、それぞれのドームに吸排気のバルブを設け、2つの渦流を発生させてスキ ッシュ効果と共に、燃焼速度の向上を狙う4バルブヘッドを進化させたものだが、二 ューTSCCでは燃焼室をさらに完全燃焼に有利な真円上としている。
 これによってより強いスワール(渦流)を発生させ、11.3もの高圧縮比を得て、 59ps/1万1000rpm、4.Os‐m/9000rpmもの高出力を得ており、 いうまでもなくトップレベル。
 排気系はGSX400インパルスで採用されていた、マフラーの集合邦を各気筒の 爆発順序と同順に並べるサイクロンタイプ、となっている。これはこの集合邦で排気 を旋回させようとするもので、排気速度の促進によって、中低速域から高速域までの ワイドなパワーバンドが得られる方式。GS1000Rを始め、ョシムラチューンで は見馴れたレーシングテクノロジーでもある。
 フンンのリーンアングルを稼ぐ意味でも、エキゾーストのとりまわしは、エンジン の真下に向かって複雑な曲線を描いてまとめられるレイアウトは、GS1000Rそ のもののスタイルをみせる。大型サイレンサーで充分に消音はされるものの、GSX -Rエキゾーストノートが、パラレル4の中でも際立ってレーシングイメージを与え るのも、ここにひとつの大きな要因があるようだ。
 水冷化はこうした高出力を安定させる重要な役割を担うわけだが、電動ファンを備 えたラジエターは、最近目立って増えてきた冷却効率の高いコアを横方向に並べたタ イプとなっている。いずれにせよ、水冷DOHC16バルブのメカニズムで、マシン全 体の中で軽量化への貢献度がこれだけ大きく、しかも高出力、となれば、エンジニア の執念たるや相当でレーシングマシンの開発レベルにごく近い。
 発売以来、高価であるにも関わらず大変な人気を得たあのRG250Γが、チャン ピオンマシンRGΓのレプリカイメージをユーザーの意識の中に大きく刻みつけるこ とができたのは、量産車初のアルミ角断面フレームの採用が大きく作用していた、と して異論はあるまい。
 もちろんGS1000Rレプリカイメージを限りなく追い求めるGSX‐Rだ。R GΓ同様アルミ角断面フレームを採用したGS1000Rであれば、GSX‐Rのフ レームの材質や形状、レイアウトにむしろ選択の余地はない。それもRG250Γ− HBと同じく、そのアルミ角断面を一歩押し進めたより軽量なMR-ALBOX(マ ルチリブ・アルミボックス)フレームとなっている。この角断面の各コーナー部の肉 厚をリブ状に稼ぎ、全体には肉厚を薄くとる軽量高剛性断面材の仕様によって、GS X‐Rのフレーム本体は何と7.6sでしかない。スチール系に比べて6s以上もの 軽量化であるという。スイングアームも同形状だ。
 またこのGSX‐Rではフレームの部材としてアルミダイキャスト製の占める割合 も大きい。GS1000Rに非常に良く似たレイアウトであるスイングアームピボッ ト付近のアンダーループとタンクレールを結ぶ直線的な構成部分、ステアリングヘッ ドパイプを下から支える構成部分はそのアルミダイキャスト製。各パイプとの接合は 溶接によるわけだが、右側アンダーループ部とはボルトオンとしてエンジンの積み卸 し用の肌着方式の接合部を兼ねている。
 最高速201q/hのポテンシャルはレーシングマシンの緊張感と似たものを漂よ わせる。ところで152sという例のない軽量な4気筒400ぼを想像されたことが あるだろうか。一挙に20s〜30sも軽量化が達成されたそれは、取りまわしを250 cクラスと全く同じくする。軽さは例外なく親しみ易さを大きくするものだ。さて、 レーシングイメージはエンジンのアイドリングからスタートする。1リッタークラス の重みは望むべくもないが、400cとしては低周波のサウンドがサイクロンタイプ のマフラーから、やや控えめに奏でられている。右手への反応もそのエキゾーストノ ートと共になかなかのものを感じさせる。国内の厳しい騒音規制をクリアーするわけ で、その音量は大きくないが音質についてはやはり独特のトーンを間くことができる。  話を絶対的パフォーマンスレベルヘ移そう。1万2000rpmまでを使い切った スタートダッシュは、完全にその排気量を忘れさせる。軽量な面はここでも有効で、 ウイリー寸前のローギヤから180q/h近辺までを瞬時に加速してゆく。ここから メーターのフルスケールを外れてゆく域はさすがに緩慢だが、750ccと全く同じベ ース、そして同クラスのライバルを突き放しての優越感に浸れることうけあいだ。高 回転域のバイブレーションも、リジットマウントらしく適度。真上を向いたレブカウ ンターを注視してのレーシングマシンムード一杯の空間を疾駆する。
 ひとつの「夢」の具現化が、外観だけコピーしたようなイメージでは魅力となり得 ないことは明白だ。こうしたマシンを乗りこなしてゆくことの何たるかをライダーが 認識し、各々のマシンとの接し方を選べば良いのだ。

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